2009年06月28日

失いたくないもの

 車から降りてドアを閉めた拍子にピアスを片方落とした

 大きなフープは微かな音を立てて弾み車体の下に転がって入っていった

 駐車場にかがんで車の下を覗くとピアスは車体の下ほぼ真ん中で光っていた

 思い切り腕を伸ばしても届く距離ではない

 わたしはアスファルトに腹ばいになり頭を車の下に突っ込んでピアスに手を伸ばした

 そしてその瞬間 車の下で絶命するという感覚を味わった



 自分の愛車の見慣れぬ暗く煤けた機械としての部分を見上げて

 こんな重たそうな鉄の塊とアスファルトにすり潰されるのかと思うと

 アドレナリンが体中をかけめぐり脳が窒息しそうだ

 気をつけていたとしても 事故に巻き込まれれば

 ある程度の確率であきらめなきゃならない時がある

 アスファルトの上で自分の命が消えていく

 不意に訪れた死をその瞬間に受け入れられるのか

 カエルのようにつぶれて

 遺言もなしで逝きたかないよなー

 しかし

 自分の死そのものより怖いものがある

 わたしの死を受け入れなければならない遺された息子の絶望だ

 なぐさめようにも

 「ママはもう痛くないからだいじょうぶだよ」 なんて死んじゃったら言えないもんなー

 キツイ話だけど普段から死について話し合っておくのもいいのかな

 でも逆に息子や愛する人が死んじゃったら
 
  ・ ・ ・ ・ ・ ・

 あーーーだめだめだめ! やだやだやだーーー! 

 そんなの絶対だめだから!

 もうやめた! 思考停止

 でもこの世にはそんな想像を絶する苦しみを抱えて生きている人がたくさんいるんだなぁ

  ・ ・ ・ ふぅー

 アスファルトに張り付いた重たい体を起こしてピアスをつけなおした

 サイドミラーに映る40半ばの女の顔

 いまだに命がけなんて言葉を好んで使っているわりには

 絶対に失いたくないものがちゃんとある
  
Posted by kumi d'oro at 15:05Comments(2)雑記

2009年06月19日

安土☆桃山

 先日久能山東照宮へ行った

 深い緑の木々の中に突然現われる権力者の原色の自己顕示欲

 家康も実は信長や秀吉のオラオライケイケな部分に憧れてたのかなーなんて想像していたら

 ふと一年程前に作った安土桃山風のバッグのことを思い出したのでご紹介

 わたしの大切なお得意様からのご注文だ

 与えられたお題は 

 「干支がモチーフで亥年を強調した 着物でも持てるバッグ」

 これには 困った

 干支って あの ねーうしとら ってあれ?
 
 頭の中を年賀状プリントにありがちな十二支のデザインがぐるぐる ・ ・ ・

 何度もお断りしようかと思った

 しかし このお客様はご一家で今までも数々の楽しいお題とともにご注文を下さり 

 わたしはその度に挑戦させていただき

 レザーグラフィックアーティスト(自称)として成長するきっかけを下さった大切なお客様なのだ

 そしてなによりこのわたしを信頼してくださり すべてをお任せして下さるのだ

 自分では想像もつかないこんな仕事こそ今までの自分の殻を破るチャンス
 
 ここで断ったら女がすたる

 長い長い制作時間をいただきお受けすることにした

 和のデザインで行くならわたしには安土桃山風しか頭になかった

 あのROCKな安土桃山時代と大好きなメキシカンアートと融合させて

 どうせなら万人を振り返らせる程パワフルなバッグを作りたかった

 絵も字もヘタくそなわたしが出来ることといったら今までに無いものを作り出すことしかないのだ

 悩みに悩んで出来たわたしのオリジナル干支文字がこれ

 
 子、牛、寅、卯、辰 ・ ・ ・ わかります?戌はスヌーピーっぽくしてみた(笑)  最後のはイノシシの鼻の印



 亥年生まれのお客様のための亥年強調サイド




 側面はオリエンタル系の蘭 南蛮渡来影響系の箱のようにみせたかった



 
 その日は天気がよかったのでひんやりとした石段の上を歩くのが心地よかった

 当時はとんでもなく斬新だったんでしょうね あの東照宮

 職人さんたちもきっとあのアバンギャルドな新しい注文に必死で挑戦していたんだろうな

 でもあれ1年半くらいで完成させちゃったんでしょう?  す芸!  

 わたしのバッグより早いじゃん!

 木立の間から当時も見えたであろう青く穏やかに光る駿河湾を見ていたら

 時代もまったく違う 技術だってまったく及ばないけれど

 わたしもここ静岡で そこそこしんけんに挑戦しながらモノを作っているその事を

 ほんの少しだけ 初めてなんだか誇らしく感じた

 そんな気持ちのいい日だった


   
Posted by kumi d'oro at 21:30Comments(2)皮革作品

2009年06月06日

山椒魚

 東京に住んでるオサレな歌人のおばさまのご注文

 ヘビーな帆布に牛革製の持ち手がついたトートバッグ

 テーマ 井伏鱒二の「山椒魚」  理由 わたしが最近読んだから(笑

 A面のテーマ
 
 岩穴から出られなくなってしまった山椒魚が蛙を閉じ込めようとしている気持ちとか

 水中から見える水面の様子などのイメージ


 B面のテーマ

 山椒魚が暴れて濁った水の中でうごめくやるせない気持ちの塊りみたいなものと

 岩穴の隙間から見える明るい外の世界の対比

 


 

 おばさま気に入ってくださるかなー 

 わたしはこのバッグ大満足なんだけどね

 写真だと上手く伝わらないけど 

 実際持ってみるとこの持ち手はド迫力だかんね 

 麻のパンツかワンピにゴールド系革サンダルで持ったら

 カッコイイー大人の女コーデの出来上がりでしょ!

 プラス ビッグフレームのグラサンで無敵でしょ! 

 ん~マダーム (´ー`)

 そしてなによりカッコイイ事実は

 イカチィこのバッグのテーマは山椒魚っつーことだ(笑

 文学ィエ~☆

 

   
Posted by kumi d'oro at 15:26Comments(9)皮革作品